回向 (えこう)
「回向(えこう)」とは、仏教において他者の幸せや成仏を願い、修行や祈りの功徳を他者に振り向けることを指します。自分が行った善行や修行の功徳を自分の利益だけでなく、亡き人々や家族、さらには全ての人々に捧げる行為です。この考え方は、仏教の「利他(りた)」の精神に基づいており、自身の修行の成果が他者の救いとなることを祈るところに意義があります。
回向は葬儀や法要において重要な役割を果たし、特に亡くなった故人の成仏を願う場面で多く行われます。僧侶が読経を行い、その功徳を故人や先祖に向けて祈ることで、故人の霊が安らかに成仏できるように願うものです。また、遺族や参列者も一緒に手を合わせ、故人への思いを込めて回向を行うことで、心を清め、悲しみを乗り越える手助けにもなります。
さらに、回向は個人の修行や日常の善行にも適用され、他者のために祈ることで心の成長や安らぎが得られるとされています。仏教では「自利利他円満(じりりたえんまん)」といい、自らの利益と他者の利益が一体であると考えられています。そのため、回向を行うことで、自分と他者の幸せが同時に実現されるとされ、個人の修行が社会全体に利益をもたらす道としても重視されています。回向は単なる祈りではなく、他者を思いやる心と行いが一体となった仏教の基本的な実践です。